我々が有す意識・精神・心と称されるもの、「わたし」という自我が此処に在るという不思議。
ここには我々にとって最も重要な問題がある。そして、それゆえこの問題は人間にとって一番大きなタブーをはらんでいる。
心の正体。その答えは人々が触れたくない禁忌の領域に抵触するものだ。だからこそ数千年に及ぶ歴史を経ても、いまだ核心に迫る追求がなされずに多くの謎に満ちた存在としてあがめられている。人々は本音では「こころ」というものが神のごときブラックボックスであり続けることを望んでいるのだろう。「わたし」こそが世界の中心に座し、「わたし」こそが自己存在の意義を担う主体なのだからそれも当然のこと。自我が色褪せるとき、世界もまた同じく色褪せて見える。自我がその存在意義を失うならば、世界もまた同じくその存在意義を失うだろう。我々がいかなる理由があっても譲ることのできない守るべき究極の価値こそが自己存在だ。
だが、我々はそれが何なのかをあまり理解していない。
我々がわけの分からぬまま守ろうとしている、この「心」と呼ばれるものは一体何か。
第二章『 事実と価値の関係について 』の中で私は明らかにした。禁忌のあるところには、人々が触れられることを望まぬ「真実」が影を潜めている。そして価値とは妄信の産物であり、価値は真実によって必ず否定される運命にあることを明らかにした。価値の存在証明は決して行われない。
幻想は真実によって打ち砕かれ、我々は痛みを知ることになる。
残念ながらそれが原則だ。
「心」とは何か。ここにひとつの答えを記す。
禁忌を犯す勇気を持つ者にとって、それはもはや謎ではない。
あなたが何を知ろうとしているか。それによって自身にどんな変化がもたらされることを望んでいるのか。よくよく考えた上で、読み進めるかどうかを選択することだ。
(1) ラプラスの魔物 / 変容する自己 / (2) アイデンティティーと記憶 / サブリミナル・マインド / (3) 無意識の意志 / 意識と無意識 / (4) 0.5秒の遅れ / 禁じられた真実 |
(1) 扉 / (2) 心の時間 / 選択と多様性 / (3) アイデンティティーの役割 / 受動的な意識の役割 / (4) 拒否権・クオリア / 神話の終焉 |
(1) 放たれた矢 / (2) レジスタンス / 新たな方向性 / (3) 人為的進化 / (4) 法則の破れ |
参考文献
補注 および 用語解説